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医薬品添加剤の持続可能性

持続可能性の実現のために、医薬品添加剤ユーザーは、GHG(温室効果ガス)の組み込み排出量が少なく、廃棄物を減らし、水資源への影響を最小限に抑えた医薬品添加剤を入手する必要があります。そのため医薬品添加剤メーカーは、プロセスを最適化し、エネルギーを再生可能または低炭素のものに切り替える必要があります。製薬業界としての長期的な目標のために、医薬品添加剤ユーザーとサプライヤーが協力してデータを共有し、段階的の改善方法を確認したうえで、現行法の範囲内で環境負荷ゼロの原料を供給する必要があります。このブログは、医薬品のサプライチェーンを通じた環境持続可能性のベストプラクティスと情報交換のための基準とガイダンスを示しています。
 

国連(UN)の環境と開発に関する世界委員会によれば、環境の持続可能性とは、将来の世代が現在と同等かそれ以上の生活を送るだけの天然資源を利用できることとしています。しかし、持続可能性はグリーン、ナチュラル、エコフレンドリーと同じ意味でも使われています。では、医薬品添加剤の持続可能性について語るときの本当の意味とは何でしょうか?

医薬品添加剤は医薬品の処方としては非活性成分ですが、最終的な医薬品では単なる賦形剤ではありません。これらは機能性成分であり、可溶化、安定化、デリバリー促進、製剤保存などの重要な役割を持ちます。最近まで、持続可能な医薬品添加剤の供給といえば、高品質、規制遵守、供給の安定性、完全性に重点が置かれていました。これは、安全性、医薬品へのアクセス、価格の抑制、倫理、サプライチェーンマネジメントに焦点を当てた、医薬品添加剤ユーザーと医薬品開発者が持続可能性について優先する事項と一致しています(1)。しかし近年、気候危機やプラスチック汚染によって、企業や政府、そして消費者の間で環境意識が高まっています。製薬業界は、人々だけでなく地球を救うために果たすべき役割を認識するようになっています。

GHG排出に関しては、多くの世界規模の組織が企業の持続可能性目標を策定し、Science Based Targetsイニシアチブ(2)やRace to Zero(3)のようなキャンペーンや取り組みと足並みをそろえています。あらゆるセクターの組織が、自社事業(スコープ1およびスコープ2と呼ばれる)だけでなく、サプライチェーン(スコープ3)全体にわたるGHG排出量の削減目標を設定済み、または設定中です。大手製薬企業上位20社(4)では、全企業が事業活動に伴う排出量を削減するための環境持続可能性目標を設定し、80%がScience Based Targetsイニシアティブ(5)(SBTi)の1.5℃パスウェイに沿った目標を掲げています。SBTiに対応している大手製薬企業上位20社の50%は、2050年またはそれ以前に環境負荷ゼロを達成すると確約しており、14社はサプライチェーンに関連する温室効果ガス排出量を削減する意欲を持ち尽力しています。

環境負荷ゼロの医薬品を製造するためには、環境負荷ゼロの医薬品添加剤を入手する必要があります。課題は定まっており、医薬品添加剤のユーザーとサプライヤーは、現在と同じ高品質で高性能の医薬品添加剤を、GHG排出ゼロもしくは極めて少なく、製造や包装の廃棄物がなく、水資源への影響が少ない方法で供給するために必要なことを確認する必要があります。

今日、我々が製造する医薬品添加剤によって環境への影響を減らすために、取り得るアプローチはいくつかあります。医薬品添加剤サプライヤーも、製造プロセスを動かすための化石燃料への依存度を減らす必要があります。再生可能エネルギーの導入は、しばしば大きなインパクトを与えます。Energize(6)は、医薬品サプライチェーンにおける再生可能エネルギーを増やすためのプログラムで、大手製薬企業10社がスポンサーとなり、サプライチェーン内のGHG排出量を削減することを目的としています。しかし、単に再生可能な電力に切り替えるだけでは十分ではなく、エネルギー効率化の他のアプローチも必要です。例えば、インフラや工程設備で、ヒートポンプ技術などのよりエネルギー効率の高い代替品にアップグレードしたり、ローカルプロセスからの余剰熱や蒸気を利用したりすることです。

さらに複雑なのは、ティア1サプライヤーと顧客との単純なやりとりではないということです。スコープ3の排出量は、サプライチェーン全体を通じて積み上がるため、医薬品添加剤メーカーは原材料サプライヤーを特定し、協力する必要があります。次にそのサプライヤーは自社のサプライヤー、と順に連絡を取り合い、そうして初めて、スコープ3排出量の段階的な改善が見られるのです。これらの原材料の原産地について理解し、持続可能な調達方法を確保することも、影響を与える可能性があります。パーム油誘導体は、一部の医薬品添加剤の製造に利用されています。

SPO認証取得パームから生成した製品を購入することで、労働者の公正な待遇が保証されるだけでなく、森林伐採が削減され、農業慣行が改善されます。これらの便益によって、非認証パームによる生産と比較して計算上でGHG排出量が36%削減されることが検証されています(7)。

環境面で懸念されるのは、GHGの排出だけではありません。水の使用と廃棄物の発生、そしてこれらによる生物多様性への二次的影響もまた、製薬業界にとって、ひいては医薬品添加剤のサプライヤーとユーザーにとって重要な要素です。プロセス内部での水の使用が環境に与える影響は、使用される地域の水質に大きく依存することになります。医薬品添加剤サプライヤーは、水の採取を最小限につつ、同質・同量の水を戻すと保証するために、水使用に関する適切なアプローチと社内目標を策定することが必要です。医薬品添加剤の製造と使用が医薬品のウォーターフットプリントに与える影響を減らすには、水使用の基準と見込みについてサプライチェーン全体での関与が求められます。

「近年、顧客との関わりにおいて、環境持続可能性の重要度が高まっています。これまでは、顧客はクローダが高品質で高性能な医薬品添加剤を供給することを期待していましたが、現在では環境への負荷を理解したいと考えています。持続可能性について意識が最も高い顧客は、現在のデータだけでなく、将来的にGHG排出量、廃棄物発生量、水使用量を削減するための改善を行う保証とコミットメントを求めています。クローダ自体のサステナビリティへのコミットメントとしては、すでに多くの場面で短期的・中期的なアクションに足並みを揃えています。顧客と協力することで、より持続可能な医薬品添加剤を長期にわたって供給したいと考えています。」
 
Jasmine Barcock

Jasmine Barcock, セールス担当ディレクター(Sales Director), Croda Pharma

廃棄物削減の焦点は2つあり、製造工程由来のものなど工程廃棄物の削減と、サプライチェーン全体を通しての包装廃棄物の削減です。医薬品添加剤の包装については、サプライヤーとユーザーが協力して、包装材料を地域のリサイクル・再利用政策やスキームに合致させる必要があります。医薬品添加剤メーカーは、廃棄物埋め立てゼロを目標に掲げていますが、炭素排出量と同様、定義や目標がおびただしく存在するため、業界全体として連携することが困難です。しかしおそらく、医薬品添加剤サプライヤー、ユーザー、包装開発者の間で協力関係を強化することが、廃棄物削減に繋がると考えられます。また、医薬品添加剤の容器を開封・再密封すると製品保証が失われるため、これが廃棄物の大きな発生源となります。場合によっては、顧客に供給された医薬品添加剤が90%も廃棄されることがあります。これは、医薬品添加剤パックのサイズと単一バッチの調製に必要な量との間に整合性がないためです。医薬品添加剤が必要な量だけ取り出された後、製品の完全性を再確立するために適切に管理しなければ、残りは処分となり、廃棄物を発生させるだけでなく、関連する二酸化炭素排出量を増やすことになります。

医薬品添加剤の小包装化が進んでいますが、どの薬物調製でも同じ量の医薬品添加剤が必要となるわけではありません。また、この方法では包装材の量が増え、輸送重量も増すため、慎重に検討する必要があります。品質検査や使用のための医薬品添加剤を取り出せると同時に、残りの材料の安定性を損なわないような包装は、国連の持続可能な開発目標12「持続可能な生産消費形態を確保する」に沿う上で、サプライヤーとユーザーの双方を支援することになります。しかし、持続可能な医薬品添加剤とは、製品のカーボンフットプリントや製品1kgあたりの環境データの面だけを指すのではありません。医薬品添加剤の持続可能性は、薬物の投与量あたりで考慮する必要があります。高品質の医薬品添加剤は、その製造において、医薬品添加剤の不純物を除去することでAPIと医薬品添加剤の負の相互作用を減らすことができ、薬物と最終製剤の両方の安定性を維持することができます。これによって処方が容易になり、保存期間が長くなり、錠剤のサイズが小さくなり、あるいは低温での貯蔵や輸送の必要性が減り、これらすべてが下流の二酸化炭素排出量の削減や環境利益につながります。今日、このような利益は、製剤メーカーや許可保有者にとっては品質の向上として定量化できる場合が多いのですが、将来的にはサプライチェーンが、スコープ4の「回避されたGHG排出量」として展開している炭素排出の節約という観点で、定量化できるようにならなければならないでしょう。

現在の最大の課題のひとつは、サプライチェーン全体を通じて、この環境影響データを定量化し共有できるようにすることです。環境データのカテゴリー付けと、業界内で異なる報告・検証スキームが、証明書における計算を難しくしています。しかし、このセクターは一丸となってこれらの課題について議論し、指針や位置づけを定めようとしています。

ipec federation logo

IPEC Federation(国際医薬品添加剤協会)は医薬品医薬品添加剤の品質と安全性を後押しする世界的組織です。IPEC持続可能性情報パッケージの草案には、以下の項目があります:

  • サプライヤーのESG(環境・社会・ガバナンス)プログラム
  • サプライヤーの調達とサプライチェーン
  • 健康と安全
  • 事業の継続

企業間会員制組織であるBioPhorumは、持続可能性に焦点を当てたフォーラムを設立しました。このグループは、生物製剤業界のロードマップを作成しています。スコープ3の排出と水資源に関する主要な作業と同様に、ベースライン、測定基準、重要な実現要因を定義するものです。生物製剤のサプライチェーンを通じた協力により、ベストプラクティスを作成・共有し、「優れた」環境データの基準に関する提言を行うとともに、サプライチェーン全体を通じてデータ共有による業界支援を目的としています。特に医薬品添加剤に関しては、IPECが、持続可能性に焦点を当てた医薬品添加剤情報パッケージの新しいセクションを開発中です。当初の情報パッケージでは、製薬メーカーが患者の安全性への潜在的影響の評価を行えるよう、医薬品添加剤と医薬品添加剤サプライヤーに関する情報交換に重点が置かれていました。持続可能性情報を含むようにパッケージの範囲を広げることによって、医薬品添加剤のサプライチェーンに沿った明確なコミュニケーションを可能にするための第一歩が踏み出されました。

質の高いデータへの一貫したアクセスと、サプライチェーンの管理上の負担とのバランスが重要です。科学的根拠に基づく目標イニシアティブや、EcoVadisやCDPのような報告プラットフォームは、大手製薬会社やそのサプライヤーにより頻繁に利用されています。このセクターは、新興の中小企業が、環境の専門家やデータ、あるいは報告プラットフォームを利用する資金不足のために、将来の医薬品開発から排除されないよう留意する必要があります。

残念ながら、持続可能な医薬品添加剤を供給するための万能薬はありません。持続可能な製品を供給するためには、現在行っていることを変える必要があり、医薬品添加剤のサプライヤーやユーザーにとって、既存の規制システムは変化に容易に対応できるものではありません。新薬の開発においては、当初から持続可能性をプロセスに組み込み、Quality by Design(設計による品質:QbD)と並行して検討する必要があります。既存薬については、医薬品添加剤サプライヤーとユーザーとのより深い協力関係の中に解決策を見出さなければなりません。情報の共有と信頼できるパートナーシップの拡大により、新たな機会が見出され、企業、患者、そして地球にとっての利益がもたらされます。

著者について:Rebecca Woodはクローダのライフサイエンス持続可能性担当マネージャーです。持続可能な化学と技術開発のバックグラウンドを持つRebeccaは、化学薬品セクターで約20年の経験を持ち、主にサプライチェーンや学術機関との協力的な業務に携わってきました。現在の職務は、Croda Pharmaの事業をサポートしてお客様に持続可能な製品とサービスを提供することです。

  1. SASB Biotechnology and Pharmaceutical Standards 2018(SASBバイオテクノロジーと医薬品規格2018)
  2. Ambitious corporate climate action -Science Based Targets(意欲的で共同した気候変動対策-科学的根拠に基づく目標)
  3. Race To Zeroキャンペーン|UNFCCC(気候変動に関する国際連合枠組条約)
  4. 2021年売上高トップ20の製薬企業|Fierce Pharma
  5. 行動する企業-科学的根拠に基づく目標
  6.  https://neonetworkexchange.com/energize
  7.  Schmidt J and De Rosa M (2019).Comparative LCA of RSPO-certified andnon-certified palm oil – Executive Summary.2.-0 LCA consultants: https://lca-net.com/clubs/palm-oil