遺伝子編集治療薬デリバリーのための脂質の技術
ホワイトペーパー: 遺伝子編集療法のデリバリーのための脂質技術
Pharma's Almanacはこのほど、クローダのStephen Burgess博士と対談し、遺伝子編集技術が研究室から臨床の段階へとどのように進んでいるかを取り上げました。遺伝子編集は、ここ最近のバイオ医薬品開発において最も期待されている技術のひとつです。しかし、遺伝子編集療法の開発を成功させるための最大のハードルのひとつは、大型で繊細な成分を効果的にデリバリーすることです。脂質ベースのナノ粒子は、これらの課題に有望な解決策をもたらします。
Stephen Burgess博士について
博士は、脂質技術と核酸デリバリー担当の責任者です。過去30年以上にわたり、多くの研究者とともに特殊な実験的課題に対応し、ドラッグデリバリーを改善するための新たな脂質および脂質製剤を開発してきました。ドラッグデリバリーの開発、遺伝子治療、創傷治癒、ワクチン開発など、多様なプロジェクトで重要な役割を果たしてきました。脂質合成、脂質の生物物理学的特性、膜ダイナミクスにおける彼の経歴は、こうしたプロジェクトに関連する問題の解決に役立っています。
治療用CRISPR遺伝子編集の可能性について、もう少し詳しく教えていただけますか?
遺伝子編集技術は、ゲノムの遺伝子配列を切断、挿入、置換することによってDNAやRNAの配列を操作するために用いられます。現在までに、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化規則的間隔短回文反復(CRISPR)の3つの主要な技術が開発されています1。当初、この技術は主に疾患経路に関与する遺伝子を同定する研究目的で使用され、遺伝子ノックアウト/ノックダウンの重要性を評価したり、機能性タンパク質の遺伝子を導入することで表現型を逆転させたりしていました。しかし現在では、遺伝子編集技術に基づく多くの治療薬候補が臨床を進んでいます。
遺伝子編集技術CRISPR/Cas9の最初のバージョンの開発者たちは、その功績により2020年のノーベル化学賞を受賞しました。最初のCRISPR編集ツールが導入されて以来、主に遺伝子工学を通じて多くの進歩がみられました。現在の候補の中には、第2世代の技術を活用したものもあれば、初期の問題のいくつかに対応し治療用として必要な精度と持続性を備えた、第3世代のアプローチに依存したものもあります。各候補が前臨床および臨床の開発を経て、より多くの知識が得られるにつれ、さらなる改善が期待されます。
このアプローチを模索している多くの企業では、現在、プログラムが急加速しています。例えば、Verve TherapeuticsとIntellia Therapeuticsは臨床試験に近づいています。この分野には多くの新しい企業も参入しており、その多くがin vivo治療に焦点を当てています。遺伝子編集システムが最適化され、正確さと効率が増すにつれて、新しいさまざまな疾病に対処することが可能になり、in vivo治療を目指す動きが続くでしょう。
LNPが魅力的なデリバリー媒体である理由とは?
CRISPR遺伝子編集ツールのデリバリーには、いくつかの異なるアプローチが採用されており、それらは一般的に物理的、生物学的、化学的に分類することができます2。物理的なデリバリー方法には、電気穿孔法、微量注入法、音響穿孔法などがあります。電気穿孔法は、iPS細胞を含む、トランスフェクションが困難な細胞にCas9 RNPを導入するのに有効です2。しかし、in vivoの導入では効率が悪いため、ほとんどの用途はex vivoとなっています。微量注入法では、顕微鏡下でCRISPRの成分を細胞に注入するため、処理量に限界があります。また、カーゴサイズには制限がありませんが、特殊な装置と専門的技術が必要であり、ヒトの治療には適さない接合子の段階に主眼が置かれています。音響穿孔法は超音波と注射を組み合わせたもので、いくつかの開発製品で研究されています。
生物学的デリバリーには、主にウイルスベクターとウイルス様粒子を使用します2。ウイルスベクターによるデリバリーでは、CRISPR/Cas9をコードする配列がウイルスゲノムに組み込まれ、標的細胞内にRNP複合体が放出されます1。ある種のウイルスベクターには、安全性に関する懸念(突然変異、がん原性、免疫反応など)や包装の制限があります。エクソソーム(膜結合小胞)は、CRISPR/Cas9をデリバリーするためのもう一つの天然の代替方法であり、その生体適合性と、免疫原性の低さから研究が進められています。
CRISPR遺伝子編集ツールのデリバリーは、リポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)、高分子ナノ粒子、金ナノ粒子、その他のナノスケールソリューションなどの化学的方法でも可能です1,2。LNPは、免疫原性が低く、標的とする臓器と細胞に高い柔軟性をもたらす点で魅力的です1,3。また、リポソームの生物学的毒性を低減した脂質様ナノ粒子(LLN)として、生分解性成分を配合することもできます。
最近の一例では、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)を治療するための遺伝子編集療法として開発されたCRISPR-Cas9/sgRNAシステムが、化学的に定義されたLNP溶液を用いて実現され、マウスモデルの骨格筋組織への安全かつ反復的な注入が可能となりました⁴。
全体としてLNPは、ウイルスベクター技術と比較してin vivoでのCRISPR/Cas9成分のデリバリー効率は高く、毒性は低く、一方で、治療効果を得るために必要な精度が維持されます。
封入、効率、精度の課題については?
LNPはCRISPR/Cas9遺伝子編集成分のデリバリー媒体として魅力的ですが、克服しなければならない課題もあります。ひとつは、十分な原材料をどのようにLNPの中に封入するかの見極めです。そのため、より大きなペイロードを搭載できるLNPデリバリー媒体の開発に研究が集中しています。他にも、LNPのデリバリー効率と精度を高めることは主要な目標です。遺伝子編集では、多数の細胞に成分をデリバリーする必要があります。したがって、投与の費用対効果を高めるには高いデリバリー効率が重要です。また、オフターゲット編集を防ぐことも同様に重要です。
脂質でコーティングされたポリマーコアを持つLNPについて、もう少し詳しく説明してもらえますか?
ハイブリッドLNPは優れたソリューションとなり得ます。これは、遺伝物質を封じ込める固体のポリマーコアと、生体適合性があり細胞の脂質膜を通過しやすい脂質成分からなる脂質コーティングを持っています。遺伝物質の封じ込めと保護、細胞内への取り込みが非常に効率的です。非天然のイオン化可能脂質であっても、製造方法によっては生体適合性があって代謝可能であるため、毒性上の問題はありません。加えて、コアが高分子であることは必要な脂質原材料がより少ないことを意味し、毒性をさらに低減します。
さらに、ペプチド、タンパク質、抗体などの標的指向性因子を脂質に結合させることで、これらの治療薬を特定の部位に対して標的化することが可能になります。そこで重要な課題は、目的のデリバリー効率を維持しながら、大きな遺伝子編集成分を封じ込めることができるようポリマーコアを設計することです。ハイブリッドLNP用のポリマーコアの開発が進めば、毒性を抑えつつ、より大量の遺伝物質を効率よく、標的を定めてデリバリーすることが可能になります。LNP生産において、ポリマーコアの設計は研究開発の重要な分野となっています。
参考資料:
- Duan, Li et al. “Nanoparticle Delivery of CRISPR/Cas9 forGenome Editing.” Front. Genet. 12 May 2021.
- Taha, Eman A., Joseph Lee, and Akitsu Hotta. “Delivery ofCRISPR-Cas tools for in vivo genome editing therapy: Trends andchallenges.” Journal of Controlled Release. 342: 345–361 (2022).
- Ross, Colin J. D. et al. “Lipid-Nanoparticle-Based Deliveryof CRISPR/Cas9 Genome-Editing Components.” Mol.Pharmaceutics. 19: 1669–1686 2022.
- Kenjo, Eriya et al. “Low immunogenicity of LNP allowsrepeated administrations of CRISPR-Cas9 mRNA into skeletalmuscle in mice.” Nature Communications. 12: 7101 (2021).
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3801298/#:~:text=The%20components%20and%20mechanisms%20of,by%20ZFN%20at%20endogenous%20loci.
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- https://www.nature.com/articles/nprot.2013.143
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3547402/